2012年特別イベント 台湾視察研修
●通訳案内技術研究(協力:中華民国観光導遊協会)
●海外の通訳ガイド組織との意見交換会
●旅程管理主任者資格実地研修
【実施のきっかけ】
昨年7月末の「新人歓迎懇親会」にて台湾出身の通訳案内士、呂明峰さんが「日本と同じように、台湾にも良いところがあります。一度来てみてください。」と自己紹介でお国自慢をされたことに端を発した台湾視察研修でした。ランデル先生を団長、松岡先生を副団長とする団員総勢48名によるGICSS主催台湾視察研修ツアーは期待をはるかに上回る実りの多い旅となりました。
【初日】
平成24年6月27日、台湾の空港に降り立つとGICSSのポスターを持った台湾のガイドの出迎えを受けました。成田発便のバスには、荘千紅さんと旅程管理主任者資格研修の講師兼添乗員の杉田聡さん、関空発便は、李新猷(通称Harrison Lee)さんと補助講師兼添乗員の亀井ゆかりさんが担当です。荘さんは、日本人かと思うほど日本語が達者な台湾きっての女性ベテランガイド、Harrison Leeさんはこれほど面白いガイドさんがこの世にいるのかと思う程の男性カリスマ英語ガイドさんです。このお二人のバスは翌日から自由に乗り換えて、異なるガイドスタイルを体験することができるようにプログラムされていた配慮は素晴らしいです。
さて、バスは空港から1時間程で市街地に入りました。成田便が1時間余も到着が遅れたことから、イレギュラレティの対応ケーススタディとなりました。渋滞もガイドさんの話に耳を傾けていれば苦にはなりません。最初に訪れたのが、台湾最古の寺、龍山寺。昼も夜も祈りを捧げに来る人が絶えないお寺です。次は台湾の近代化を象徴する超高層ビル、台北101。成田組、関空組の2台のバスはここで合流し、高速エレベーターで台北市内の全方向を展望できる展望階へ向かいました。その後は宿泊先のシーザーパークホテル(台北の中心地、台北車站(台北随一の総合駅)に近い)にチェックインを済ませ、夕食会場のレストラン黒占水楼懐寧店へ。
店内では美味しい点心他の料理を堪能したあと、まず初日の現地ガイドサービスについての所感をテーブル単位でディスカッション&全体発表。杉田先生からも旅程管理の講義があった後、一日目終了。
【2日目】
6月28日。午前中は観光地の視察です。まず中正記念堂を訪れました。中正とは蒋介石の別の呼び方で、そこには蒋介石の巨大な石像が据えられています。石像の前で行われる若いエリート衛兵の交代式を見学することができました。
中正記念堂を後にして、バスは高速道路を東北東の方向に進み九份に向かいました。九份は基隆湾に臨み、穏やかな海や島々の眺めのよい観光地です。かつては金が発掘され金鉱の町として賑わいを見せたそうですが、最近は宮崎駿作品のアニメ「千と千尋の神隠し」の舞台にもなったと評判にもなりました。九份に向かうバスの中で、松岡先生はHarrisonさんに金鉱で働いていた炭坑夫を扱った名作映画「非情城市」について質問をされました。これが実は後で行われた意見交換会での炭坑節につながる伏線となっていたとは・・・!
情緒豊かな九份の町、細長い通路には土産物屋が両脇に店を並べており、旅行客はつい思い思いの品物に心を奪われてしまいます。そんな私達の姿を、ガイドさん達は迷子の出ないよう上手に案内をし、またガイドと添乗員との連携プレイで、時折適切な講義と指導を下さる杉田先生や亀井先生にもつかず離れず見守られながら楽しい一時を過ごしました。研修を忘れて観光客気分に浸った一時です。
【意見交換会】
昼は台北市内に戻り、牛肉麵の店で食事。午後はホテルで、「日台通訳案内士意見交換会」が開催されました。大会議室の円卓8卓に日本側から48名、台湾側からは「台湾観光導遊協会」の代表者、理事、事務局長を含む幹部通訳案内士10名、伝統舞踊の歌手2名の合計60名の参加となりました。
通訳案内士の組織がこのような形で外国の同様組織と交流することは、日本も台湾も初めての試み。両国の歴史の1ページとして残る、まさに意義あるイベントとなりました。
意見交換会は、まずは代表者からのご挨拶。「理解と協力をもって、国際平和に貢献する通訳ガイドの資質を上げましょう」とランデル洋子理事長、そしてそれに対応する伍永益理事長からの中国語でのご挨拶は呂会員が通訳をしました。GICSSからの記念品贈呈に引き続いて和服姿の裏千家準教授宝来紀子会員が呈茶で伍理事長をもてなされると、伍氏は茶器を両手でかかえ、いささか神妙な表情で賞味されていました。
全員が飲物をいただきながらのMake Friendsセッションが設けられ、テーブル毎に日台のメンバーの交流が進みました。
その後のプレゼンテーションでは、まず日本側から芹田啓子理事、そして今井寿美子会員がパワーポイントを使って、国家試験の制度、業務の内容や日本の通訳ガイド現状とツアーの傾向、今後の課題などを説明し、台湾側からは陳理事とHarrisonさんの中英通訳によって台湾の実情がこれもPPTを使って述べられました。両国における大きな違いをひとつ挙げるならば、通訳案内士育成に対する政府の支援の有り方が強く意識されたということでしょうか。台湾では、入札制度を活用して政府が新人研修を実施する組織を決め、それに対して経済支援を行っているそうです。その後のQ&Aでは、興味深い情報交換が続きました。
会も終盤に近づき伝統(娯楽)文化交流タイムとなりました。台湾の民族歌謡が鮮やかな衣装で登場した歌手によって2曲披露され、日本からはサプライズの炭坑節です。各自、インターネットのYou Tube動画でひそかに練習し、空港ゲートの付近では他の乗客の奇異な目にも負けず輪になって練習した炭坑節、その導入のネタとして松岡先生が九份の金鉱を持ち出されて場が盛り上がりました。そうか、そうやってすべての情報を活用するのですね! 赤いはっぴが伍理事長に贈呈され、台湾の人達は何が始まるのか興味津々のようでした。ランデル先生をはじめとする4名の地方田隊によるキーボード、小太鼓、歌の生演奏がスタート。会場の円卓の間を縫って輪になり炭坑節を皆で踊りました。笑顔で溢れ、心が一つになった瞬間でした。
【2日目夜】
その日の夜は自由行動。夜の街の散策。台北市内に幾つか点在し開かれている「夜市」に向かいました。呂会員の案内で向かったホテルから近い「夜市」は、生活必需品、食べ物が溢れ、庶民の生活を彷彿させる市場です。皆のお気に入りはタピオカミルクテイーや、日本のかき氷に比べると2-3倍も大きいマンゴーアイス。マンゴーに限らずいろいろな種類を選べます。手ごろで美味しいと、台湾の若者のみならず旅行者にも大人気なのです。
【最終日】
6月29日。この3日間本当に天気に恵まれました。この日は国立故宮博物院を訪れました。中国古代~清の時代までの総計65万3,597点の財宝が所蔵されています。展示されているのはその一部ですが、ガイドの両氏は、長年かけて培った知識と案内技術で私たちの心にその素晴らしさを鮮明に刻み込んでくださいました。
その場の混み具合によって即座に鑑賞ルートを変更し、説明も対応させる柔軟さはガイドの技術研究にとても参考になりました。
昼食は博物院に併設の「故宮晶華」。そこでは洗練された料理を味わいながら、お二人のガイドさんのガイド技術に対するフィードバックが行われました。
その後、最後の講義となる杉田聡先生のお話の中で特に印象的だったのは、「ルーブル美術館に何回も行ったけれど、いつも自分が見ていたものは、『美術品を見ているお客様』なので、展示の事は全く説明できません」という部分でした。添乗員の真の姿が伝わってきました。
ガイドの技術研究、意見交換会、旅程管理の実地研修、この3つのテーマを織り込んだスーパー・ツアーも終りに近づき、私達は3日間を通して充実感いっぱいの実り多い旅ができました。流暢な日本語と日本文化に対する理解度に日本人がどう反応をしたのか、英語圏のジョークや効果的な英語ガイドにおける開放的な温暖地での屋外におけるガイドの知恵も大きな学びとなり役立ちそうです。人を惹きつける魅力の原点と、「留学経験がない」「年齢が高い」などが口実にならないと感じた切迫感が勇気となった人も多いはずです。
【最後に】
呂会員の行動が、台湾を「近くて親しみのある国」として私達に導いてくれました。私は、若い呂さんが日本と台湾の架け橋となって行動する姿に、羨ましさを感じました。帰国の途につく前、博物院のテラスで、彼の気持ちを聞くことができました。彼自身がかつてその新人研修会を受講したご縁の台湾観光導遊協会とのつながりとなって、日本と台湾との連絡係となって全身全霊を傾けて旅行の準備をしてくれたのでした。その疲れのせいか、私との会話ではちょっと表情が硬いようでしたが、「今の気持ちは?」と尋ねると、「うれしいです」とその素直な言葉が私の心を明るくしてくれました。
本研修旅行の価値を何倍にも高めたのは、ランデル先生の呼びかけに応じて下さった各種お役目の担当の自発的作業のお陰でもありました。記録、VTR撮影、受付、司会、進行管理、呈茶関連その他有志の皆様のサポートで参加意識も楽しさも高まりました。こんな貴重な体験を実現させて下さった事務局、そして半年以上もかけて自らご準備に携わられたランデル理事長、松岡副理事長に深く感謝いたします。
<鶴田政敏 他>
アンケート抜粋
- 現地のガイドさんが素晴らしかったです。語学力についてももちろんですが、日本語ガイドの方は日本人に合わせたガイディングをされ、英語ガイドの方は欧米人対応のユーモアあふれるポイントをついたガイディングを見せていただきました。これからの自分がするガイディングのための非常に良い参考になりました。(T.T)
- 日本語、英語のガイドの方ともに大ベテランの方で素晴らしかったです。それぞれの言葉を話す客の国民性をとらえた案内の仕方が自分がガイドをする時のとても良い参考になりました。特に英語は母語取る人ばかりではないので、話す速さ、表現の仕方、そして米英の発音まで気を配っているのには感銘を受け、自分もそこまでできるよう精進したいと思いました。(M.H)
- 意見交換会は大変有意義でした。台湾サイドも日本サイドもお互いの国のガイド事情に関するプレゼンテーションが素晴らしく、興味深かったです。特に台湾では強力な政府のバックアップがあり、充実した新人研修制度があるということなど、日本との大きな違いが非常に印象に残りました。また、ガイドが国際交流の架け橋になれると実感できるよい機会でした。(T.E)
- 旅程管理実務研修においては事前に課題をいただいていたので、事前準備を行いましたので、現地では疑問点が確認できるよい研修でした。現地ではその都度、杉田先生から説明していただきましたし、疑問点もその場で教えていただけたので、とてもわかりやすかったです。またプロの添乗員である亀井さんの実務も同時進行しており、実際の添乗を見ることができ、頭に定着しやすい研修でした。 (N.M)
- 意見交換会、旅程管理研修、観光と盛りだくさんの旅行でした。台北のバスは大きくてゆったりしており、ホテルも台北駅の前という抜群のロケーションで、ホテル内での日本語対応もよかったです。観光も台北の魅力をエンジョイできるものでした。(I.S)